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亡くなられた方(被相続人)が、生前に財産を相続人に贈与していたり、遺言で相続人に遺贈したり、特定財産承継遺言により遺産を特定の相続人に相続させるる場合があります。この「贈与」や「遺贈」、特定承継遺言により移転した財産は、相続では「特別受益」に当たるとされる場合があります。
特別受益があると、遺産に特別受益を加えたものが「相続財産」となります(「みなし相続財産」といいます)。
相続が発生すると、この「みなし相続財産」が、遺産分割の対象となります。そして、これを各相続人に分けることになりますが、特別受益をもらっていた人は、特別受益分を差し引いた残りの財産のみを相続することができます。
そのため、亡くなった方から生前に財産をもらっていたような場合には、相続の時にもらえる財産がその分減る可能性があります。
ただし、被相続人が、贈与等を遺産に含めない意思を示していた場合には、遺産には含まれないことになります。この意思表示を、「持戻し免除の意思表示」といいます。
以下、特別受益について、詳しくご説明します。
「特別受益」は、遺産が前渡しされたと評価できる場合に、それを遺産に足し戻す制度です。
「特別受益」となる財産には、次の3つがあります(民法903条)。
「1.遺贈」の場合は、全て相続財産に持ち戻され、遺産分割の対象となります。特定財産承継遺言による特定承継財産の移転も、遺贈と同様に取り扱われます(民法1014条1項)。
「2.婚姻、養子縁組のための贈与」は、嫁入り道具や結納金、支度金などがあります。これらは、基本的に特別受益となり、相続財産に持ち戻されることになります(ただし、金額が小さい場合や、扶養義務の範囲にとどまるといえる場合には、特別受益に当たらないとした審判もあります)。これに対し、結婚式の費用は、通常は特別受益に当たらないと考えられています。
「3.生計の資本としての贈与」については、生計を立てるのに役立つ贈与は、広く含まれると考えられています。ただし、扶養のために行っていた贈与は、特別受益にはなりません。
以下では、具体的にどういったものが特別受益に当たるかについて、ご説明します。
教育費は、親の扶養の一部とみることができる場合には、特別受益ではありません。
扶養とみることができるかどうかは、亡くなられた方の生前の資産や生活状況を踏まえて、判断することになります。
小学校、中学校、高校の学費は、特別な事情がないかぎり、扶養の範囲に含まれます。つまり、特別受益ではありません。
これに対し、大学以降の学費については、特別受益となる可能性があります。しかし、昨今は、以前よりも大学進学率が上昇していることから、大学の学費は親の扶養の範囲と判断され、特別受益に当たると判断されることは少なくなっています。特別受益に該当するかは、亡くなられた方の資産や生活状況、社会的地位、学歴などを考慮して判断されます。私立大学医学部の学費といった高額な費用については、特別受益に該当する可能性が高いといえますが、被相続人が開業医で、子が家業を継ぐために私大医学部に進学した場合にについて、特別受益には該当しないと判断した裁判例があります。
留学やホームステイについても、基本的な考え方は同様です。
なお、学費が特別受益に当たる場合でも、相続人の全員が同じ程度の教育を受けているときは、「持戻し免除の意思表示」があると判断され、学費を相続財産に戻さなくとも良いことが多くなっています。
学費が特別受益に当たるかや、持戻し免除の意思表示があるかについては、事案に応じた専門的な判断が必要です。
不動産の無償譲渡は、多くのケースで「生計の資本としての贈与」と判断され、特別受益に当たります。
また、金銭、株式、動産の贈与も、ある程度の金額(価値)になる場合には、特別受益に該当し得ます。ただし、資産や生活状況からして、お小遣いといえる程度のものであれば、特別受益にはなりません。
また、事情によっては、持戻し免除の意思表示があると判断され、相続財産に戻さなくても良い場合があります。
不動産の贈与については、対象不動産の評価が問題となります。詳しくは「不動産評価と遺産分割・遺留分」をご参照ください。
また、株式の贈与についても、対象株式の評価が問題となります。詳しくは、「非上場会社の株式の評価」をご参照ください。
亡くなった方の土地の上に、相続人の一人が建物を建てている場合、特別受益に当たるでしょうか。
これは、地代(借地料)を支払っているケースと、支払っていないケースに分けられます。
相続人の一部の方が、亡くなられた方の生命保険金の受取人となっている場合、特別受益に当たるでしょうか。
判例は、この生命保険金について、相続財産ではないとしています。しかし、この保険金が特別受益に当たるかどうかは、別問題です。
判例は、死亡保険金は、贈与や遺贈をした財産ではないため、原則として特別受益ではないとしています。
しかし、例外として、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には、特別受益と同じように考えて、相続財産に持ち戻すとしています(最高裁判所平成16年10月29日判決)。
「特段の事情」は、保険金の額や、それが遺産に占める割合、同居していたかどうか、被相続人と保険金を受け取る相続人や他の相続人の関係性、各相続人の生活実態といった諸事情を考慮して、判断することになります。
相続財産に持ち戻す金額は、保険金の額が基本となります(相続人が保険料を一部負担していた場合には、その分の割合は持ち戻さなくて良いと考えられています)。
特別受益に当たるとしても、被相続人は、特定の相続人の生活保障のために、(掛け捨て)の生命保険に入っていることもあります。例えば、子がいない夫婦で、夫が妻を生命保険金の受取人にするケースです。この保険金を特別受益として相続財産に持ち戻すことは、被相続人の意思に反すると考えられる場合もあります。こういった場合には、持戻しを免除する意思表示があるとして、相続財産に持ち戻されないこともあります。
生命保険の死亡保険金が特別受益に当たるかや、持ち戻しが必要かについては、専門的な判断が必要ですので、弁護士へのご相談をおすすめします。
特別受益に当たるとして、いつの時点を基準にその金額(価値)を評価するかが問題となります。
実務では、相続が開始した時点(死亡時)を基準に、評価します。
不動産の場合、基本的には、相続開始時の価額で評価します。
金銭については、贈与時の金額を、相続開始時の貨幣価値に換算して評価します。
株式については、相続開始時の時価で評価します。株式の評価は、税理士の専門的な判断が必要です。
夫婦の一方が、他方配偶者の老後の生活保障などを考え、居住用の不動産を贈与したいとお考えになることがあります。
相続税法は、①婚姻期間が20年を超える夫婦の間で、②居住用の不動産や不動産購入資金の贈与があった場合、2000万円まで課税控除を認める特例を定めており、贈与しやすい制度となっています。(国税庁の統計によると、平成28年では、1万1261名の方がこの特例を利用されています。)
しかし、贈与について持戻しの免除の意思表示がされない場合、居住用不動産の贈与を受けた配偶者は、特別受益を受けたことになります。その結果、相続の際に、相続できる遺産が大きく減少することになります。
そこで、平成30年民法(相続法)改正では、婚姻期間が20年を超える夫婦の一方が他方に対して居住用不動産の贈与等をした場合については、被相続人による持戻し免除の意思表示があったと推定する、とされました。
これにより、前記の例で被相続人が持戻し免除の意思表示をしていなかったとしても、原則として持戻し免除があったとして取り扱うことになりました。残された配偶者の生活に配慮した制度といえます。
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